この日の午後、狭いテントの中で長時間、息苦しい夏の暑さに、耐え続けていました。そこで、少しだけ、自分のために静かな時間を持とうと決めました。
忙しい毎日、頭の中はいつも考え事で一杯で、心身がとても疲れたので少しの間だけでも、このような環境から離れる時間が欲しかったのです。ほんの少しでもいいので息をつける時間が欲しかったのです。荒廃した環境の中でも、せめて一つだけでも喜べるものを見つけたかったのです。
その日、私は、とても幸せな時間を過ごせました。生活が楽になったのではなく、ひと月もの間、手に入れることができなかった物を見つけたのです。それはコーヒー豆です。とても高価でしたが、私にとってはとても価値がある物なので買うことにしました。一ヶ月もの間コーヒーを口にしていなかったので、かつて毎朝飲む習慣に慣れていたので、コーヒーを飲めないことで頭痛が続き、一層と疲労を感じていました。でも今日それが変わりました。どんなに高くても小さなカップでコーヒーを飲めるなんて・・・世界で一番幸せを感じる私なのでしょうか。
私は、ゆっくりと炎の上でコーヒーを煮たてました。表面に小さな泡が浮かび上がり、香が空間に広がり、まるで私の心に命が戻ってくるようでした。その最初の一口を楽しみ、このテント内の熱さや狭い空間を我慢することができました。できあがったコーヒーを持って私は、テントの前に座りました。この場所は、私にとって残念であり、失望を感じるのです。ここには、敗北感、疲労感、痛みの全てが詰まっています。
私は,コーヒーをひと口すすりました。喜びと共に喉の奥からこみ上げてくる痛みも同時に感じました。そのコーヒーは、まるで悲しみの海の小さな命綱の様です。ほんの少しではあるのですが、全ての破壊から逃げられた気がするのです。このコーヒーの香りと温もりが、爆撃の音、空腹、暑さ、恐怖、それらの全てを忘れさせてくれるように感じたのです。
一瞬、私は、悲しみをいったん脇に置くことにしました。少なくとも今だけは。
手の中の温もりを感じながらゆっくりとコーヒーを飲み干しました。心の中は悲しみと怒りで一杯でも、普通の生活が戻ったかのように振る舞いました。笑うことにしました。うまくいっているわけではないのですが、こんな現実に負けないで、私は、笑顔を見せることを選んだのです。戦闘の中では、ほんの小さな一杯のコーヒーは、お金よりも貴重であり、心にいつまでも大切にしまっておく宝物になるのです。
