2025年6月3日(火)


傷心のもとで朝、目が覚めました。そして心の奥底にある何かが変わった様に感じました。戦闘時のいつもの朝でしたが、とても静かでした。しかしその静けさは父の刃物のような鋭い叫び声で一変しました。

バジルが殺された。

私には理解できず、信じられませんでした。

私は、まだ眠気から覚めていないようでした。

父は殺されたという言葉を、今まで見たことの無いような表情で涙を浮かべ、震えた声で繰りかえすのでした。

バジルがいなくなってしまったのです。

私はすぐに父のもとに駆け寄り、彼の目をじっと見つめ、そこで直視したくない真実を見たのです。

私の叫びは心の底からの悲しみでした。

「バジルが、嘘でしょ!本当じゃないよね。」

バジルはただのいとこではないのですが、

彼は私の幼なじみで、本当の兄弟のようでした。

いつも私を笑わせてくれました。私たちの世界が崩壊したときもいつもそばにいてくれた人でした。私の秘密を、恐怖で一杯の時もこれからの夢を一緒に分かち合ってくれた人でした。

バジルはもういないなんてどうして簡単に言えるの?

さようならの言葉もなく、何の前触れもなく、どうして消えてしまうの?

私たちは急いで服を着て、涙で顔を洗う間もなく、遺体安置所へ急ぎました。

私は、悪夢の中で茫然自失の状態で歩きました。

バジルはどこに行ったの?何が起きたの?

どうしてこんなことが起きるの?

遺体安置所では、悲劇が一層と深まるばかりでした。

遺体安置所では、亡骸を見慣れているであろう無表情の男性が私達を待っていました。

バジルがイスラエルとの国境付近でアメリカ軍の救援トラックから援助物資を受け取ろうとしていたところを、イスラエル軍の狙撃兵に撃たれたと、その男性が説明してくれました。

バジルは自分と妹たちの食料を調達するためにそこに行ったのでした。

戦闘が始まって彼の父親が死亡して以来、バジルは一家の大黒柱となりました。

まだ少年だったバジルは、一夜にして大人になることを余儀なくされたのです。

彼は飢えと恐怖と生き残るために重荷を背負って生きていたのです。

パンを求めに行っただけなのに、血まみれの亡骸となって帰ってきたのです。

イスラエル兵は冷血漢です。

彼は、イスラエル軍の兵士に殺されたのです。

隠れていたスナイパーがバジルを標的に選び、引き金を引いて彼の命を絶ったのです。

私たちは赤新月社(赤十字社)に連絡をして、ラファの国境から彼の遺体を引き取るための願いを出しました。

その日、40人以上の遺体が到着しました。

遺体安置所は満員で、何十人もの家族が待機していました。それぞれが愛する人が見つからなくても、会えることを願ってそこに居たのだと思います。

バジルの遺体が運ばれてきたとき、父はすぐに気づきました。

バジルはやっと戻ってきました。でも身動きもせず、じっと横たわっていたのです。

話もせず、いつものように彼らしく笑うこともありませんでした。

私たちは、彼に話しかけ、名前を呼び、目を覚ましてと願いましたが、バジルはもう眼を覚ますことはありませんでした。

バジルは悲しみにくれる母親と6人の姉妹を残して逝ってしまったので、彼の家族を支える者は誰もいなくなってしまいました。バジルは彼らの唯一の希望であり、戦闘の苦しみと人生の厳しさを和らげてくれる存在でした。

私の大切な人、バジル

貴方との別れは、今までに経験したことの無い悲しい別れです。

私たちの喜びも一緒に奪われてしまいました。

心の中の何かが壊されたようです。そしてそれは決してこれからも癒されないと思います。

バジル、あなたは亡くなりました。希望の光も一緒に無くなりました。

誰も癒すことが出来ない痛みと戦闘の恐怖よりも大きな悲しみを伴う沈黙が残されたのです。

バジル、あなたは、ただの死者とは異なります。

あなたの夢と一緒にあなたは抹殺されたのです。

あなたの希望も抹殺されたのです。

あなたの純粋な心は、ただ生きることを願っただけなのに殺されたのです。

バジルは家族だけではなく、この土地で苦しんでいるすべての魂によって弔われているのです。

私たちは、あなたの名前、あなたの思い出、あなたの光を、どんなに深い闇の中にあっても持ち続けます。あなたのことを決して忘れません。


投稿日

カテゴリー:

投稿者: